「障害のある学生のためのWEB仕事理解プログラム」開催レポート

2022年2月7日・8日、障害のある大学1・2年生を対象としたオンラインプログラム「障害のある学生のためのWEB仕事理解プログラム」を2日間にわたって開催しました。
資生堂、ソニーグループ、トヨタ自動車の3社を迎え、各社の事業や社員の仕事を通じて自分にとっての「働く」ということを考えることを目指した本プログラム。学生たちは、働くことのイメージをどんなふうに深めていったでしょうか? 開催レポートをお届けします。

プログラム概要

<参加学生>
障害のある学部1・2年生(障害者手帳所持、申請中もしくは申請を考えている方):12名
(一部のプログラムのみ参加者を含む)

<参加企業>50音順
・株式会社資生堂
・ソニーグループ株式会社
・トヨタ自動車株式会社

<参加大学>50音順
・関西大学
・上智大学
・明治大学
・立教大学
・立命館大学
他2校

<プログラム>
●1日目(2022年2月7日月曜日 10時〜17時30分)
1. Webセミナーに向けた事前準備(1):イントロダクション、自己紹介
2. Webセミナーに向けた事前準備(2):企業・仕事研究の仕方レクチャー
3. 参加企業によるWebセミナー(1):株式会社資生堂
4. 参加企業によるWebセミナー(2):ソニーグループ株式会社

●2日目(2022年2月8日火曜日 10時〜17時30分)
5. グループワークに向けた事前準備:グループワークの仕方レクチャー
6. 参加企業によるWebセミナー(3):トヨタ自動車株式会社
7. グループワーク「3社の魅力ポイントTOP3を考える」
8. グループ発表「各社の魅力ポイントTOP3」
9. 振り返り

【1日目午前】
Webセミナーに向けた事前準備(1):イントロダクション、自己紹介

今回のセミナーは、Zoomを使ったオンラインセミナーです。参加学生の皆さんはほぼ遅れることなくZoomにアクセスし、定刻どおり10時の開始となりました。
まずは、進行役を務める事務局の2名が自己紹介。「積極的にマイクやチャットで発言してみよう」「発言は、内容についての感想やわからない点への質問などを歓迎。内容に関係のない発言や参加者が不快になるような発言はNG」と声かけしました。
そして、今回のプログラムのねらいとして、次の2つを説明しました。

・企業の話や参加学生の意見を聞いて「いろいろな考え方や選択肢がある」ということを知り、「じゃあ、自分は?」と考えるきかっけにしてほしい。

・「もしかしたら間違っているかもしれないこと」であっても、遠慮なく自由に言い合える雰囲気を目指そう。皆さんが知りたいことは、ほかの参加学生も知りたいこと。

続いて、参加学生同士で自己紹介。まずは全員でチャットに「一緒に参加しているみなさんに聞いてみたいこと」を記入。その中から各自2つ以上をピックアップして自己紹介とともに話しました。「秋学期の授業形態は対面だった?オンラインだった?」「好きなお菓子は?」などについて、さまざまな答えが挙がっていました。

【1日目午前】
Webセミナーに向けた事前準備(2):企業・仕事研究の仕方レクチャー

次に、午後から行われる参加企業によるWebセミナーに向けた事前準備として、事務局から企業研究の仕方に関するレクチャーを実施。簡単なワークを交えながら、企業研究の進め方として次のポイントを伝えました。

・企業・仕事研究の目的は、「自分に合いそうな企業や仕事とは?」という基準を見つけること。企業や社員のさまざまな話を「自分にフィットするのか?」と考えながら聞こう。

・自分に合う企業(仕事)かどうかをはかるために、次の3つに着目しよう。
1)「誰に」を思考する(=顧客は誰か)
2)「何を」を思考する(=商品やサービスはどんなものか)
3)「どのように」を思考する(=提供方法・プロセスはどうなっているか)

・企業のビジョンにも注目しよう。企業が目指す姿を知ると、企業理解が深まるし、それが将来の自分のあり方にフィットするかどうかも、企業選びのヒントの一つになる。

参加学生の声

・最初のアイスブレイクのおかげか、とても話しやすい空気ができたと思う。
・企業の情報を自分に引きつけながら聴くことの重要性を知った。この後のセミナーでは、積極的に質問してみようと思う。
・どういう視点で企業や仕事を見るかによって、見えてくることが全然違ってくると感じた。今日・明日のセミナーではいろいろな視点から話を聞きたい!

【1日目午後】【2日目午前】
参加企業によるWebセミナー:株式会社資生堂、ソニーグループ株式会社、トヨタ自動車株式会社

1日目の午後と、2日目の午前は、株式会社資生堂、ソニーグループ株式会社、トヨタ自動車株式会社の3社によるWebセミナーです。1社ずつ、参加学生との質疑応答を交えながら、次の内容を中心についてご紹介いただきました。

・業界・企業概要
-直近の業界の動向
-自社のビジョン・強み・事業内容
-今後に向けた取り組み など

・ダイバーシティ&インクルージョンに関する取り組み状況

・障害者雇用に関する考え方

・障害のある先輩社員による仕事紹介
-業務内容
-仕事のやりがい
-受けている配慮
-働く環境や周りの同僚の意識
-就職活動当時の様子 など

これらの説明に対して、参加学生からは活発に質問が出ていました。各社の説明と質疑応答のあとには、「魅力的・ポジティブに感じたこと」「新しく知ったこと・驚いたこと」「もう少し、知りたいと思ったこと」の3つを整理する個人ワークも行いました。

参加学生から挙がった質問

・今後力を入れていく事業は何か?
・障害者採用枠で採用された場合と、一般採用枠で採用された場合で、業務内容に違いはあるのか?ある場合、具体的にどのような違いがあるのか?
・障害者に対する入社後の配慮の具体例は?
・就職活動時に、障害があることをどのように企業に伝えたのか? など

参加学生の声

・「美」という理念を情勢に合わせてさまざまな形で社会に届けていらっしゃるところが素敵だと感じた。また、障害者雇用などの点において分け隔てなく社員1人ひとりの可能性を信じてくださっていることがわかった(資生堂のセミナーに対して)

・多様性を尊重する考えが古くから染みついていること、多様な配慮があることに魅力を感じた。また、「新しい価値を作る」という言葉にワクワクした(ソニーグループのセミナーに対して)

・障害がある社員の方のお話で「誰もがチャレンジできる社会」「移動の自由」など、ご自身の障害からキャリアを考えていらっしゃるところが大変勉強になった。自身の障害から、改善できそうな社会の部分を考えることも楽しいなと思った。(トヨタ自動車のセミナーに対して)

【2日目午前】
グループワークに向けた事前準備:グループワークの仕方レクチャー

2日目の冒頭には、午後のグループワークに向けて、事務局よりグループワークの進め方をレクチャーする時間をとりました。グループワークの進め方のコツとして紹介したのは次の4つです。

・グループワークで目指すのは、「グループの成果を高める」こと。1人ひとり得意なことがあるので、できないことはできる人に頼り、メンバーから頼られたら惜しみなく協力しよう。

・反対意見は自分に対する否定や嫌悪の表明ではない。お互いに「異なる意見こそ歓迎する」というスタンスで、より良いと考えることは積極的に意見し合おう。

・「失敗したら恥ずかしい」と自分を抑えて我慢していると、クセになってしまって自分の意見を言い出しにくくなる。失敗を恐れずに積極的に意見を出していこう。それが、自分らしさに気づくチャンスにもなる。

・主張が強い、沈黙し続けるといったメンバーがいても「もっと〇〇すべきだ」と評論家にならず、自分から積極的に働きかけよう。おせっかいでも、グループの成果を高めるための働きかけは、たいてい相手も周囲も理解してくれる。

参加学生の声

・積極的なグループワークにしていきたい。
・昨日よりもリラックスして参加できているので、最後まで駆け抜けていきたい!
・グループワークがとても楽しみ。

【2日目午後】
グループワーク「3社の魅力ポイントTOP3を考える」

3社のWebセミナーを終え、2日目の午後は参加学生を1グループ5〜6人に分けてグループワークを実施。グループごとにZoomのブレイクアウトルームに分かれ、Webセミナーごとに個人ワークで整理した「魅力的・ポジティブに感じたこと」「新しく知ったこと・驚いたこと」「もう少し、知りたいと思ったこと」を共有。それをもとに各社の「魅力ポイントTOP3」を議論し、まとめました。

ワークを始める前には、「視覚障害があるので、画面上のテキストは読み上げてほしい」「聴覚障害があるので、聞き返すことがある」など、学生同士で必要な配慮を伝え合う場面も。

TOP3を選び、順位づけする過程では、「多数意見はこうだけど、自分はこう思う」「その企業らしさという観点で考えると、こっちの魅力の方が上位ではないか?」など、活発な議論がなされていました。

さらに、魅力を言語化する過程で、セミナーを通じて新しく知ったことや驚いたことなどもふまえて、「どんな社会的意義がある会社か」「どんな価値を提供している会社か」を深掘りしていく様子も見られました。

【2日目午後】
グループ発表「各社の魅力ポイントTOP3」

グループワークのあとは、いよいよグループ発表です。資生堂、ソニーグループ、トヨタ自動車の順に次のサイクルで発表を行いました。

1)Aグループによる発表
2)Bグループによる発表
3)グループワークに取り組んだ感想の共有(各グループから2人程度)
4)企業より講評・感想

発表を受けた3社からは、次のような感想やメッセージをいただきました。

株式会社資生堂

私たちが化粧品の製造・販売を通じて目指しているのは、ただお客さまの見た目が美しく変化することではなく、その先にある心の持ちようというソフト面でポジティブになっていただくこと。魅力ポイントの半数以上がソフト面の魅力だったので、伝えたいことを感じてもらえてよかった。

ソニーグループ株式会社

当社の特色をすごく理解してもらえた。学生のみなさんにおいては、就職することそのものも大切だが、その先のキャリアをどう作っていくかもすごく大切なこと。大学生活でどんなことに取り組み、何を実現させた上で社会に出てキャリアをつくっていくかをぜひ考えて、大学生活を充実させてほしい。

トヨタ自動車株式会社

「だれかのために貢献する」という創業時からの思いや、障がいの有無にかかわらず多様な人材の活躍を促進するという考えを受け止めてもらえてうれしい。大学時代は今しかないので、学業もそれ以外もぜひ全力でぶつかってほしい。間違いなく将来につながるし、働いていく上できっと生きてくる。全力で楽しんでほしい。

【2日目午後】
振り返り

グループ発表を終え、最後に、振り返りとしてプログラムを通じて得た気づきなどをチャットで共有し合いました。学生からは、次の声が挙がりました。

参加学生の声

・障害があるからどうかと考えるのではなく、自分がなぜ働きたいのか、将来どうなりたいのかを考えることの重要性に気づいた。
・働くとはどういうことなのか、具体的なイメージをつかむことができた。これからもっとたくさんの企業の話を聞きたい。
・自分によく合った企業を見つけるために、まずは自分を見直すことが大事だとわかった。
・障害がある人でも働ける環境や、障害があるという理由で業務が大きく削減されるわけではない環境があることを知り、すごく安心したとともに、将来への希望を持つことができた。

これらの声を受けて、事務局からは「自分の考えとほかの人の考えを比較して、改めて『自分はどう思うか?』と考えることや、気づきや思いを言葉にしてアウトプットすることをぜひ続けてほしい」とお伝えしました。

学生の皆さんには、これからもさまざまな企業の情報を得て、自分に合う企業・仕事とはどんな企業・仕事なのか?ということを考えて将来の進路を検討していただきたいと思います。

最後に、プログラム終了後にいただいた、参加学生の声を紹介します。

参加学生の声

・周りに障害がある学生があまりおらず、相談しにくい環境だったので、参加できてとてもよかった。
・障害者が働く世界を知ることができた。
・お話を聞くなどのインプットのあと、すぐにチャットなどでアウトプットする時間があったことで、各企業についての理解がより深まった。とてもいい設計だと感じた。
・これまで、障害者を対象としたプログラムに参加する機会や、障害がある同年代の方々とかかわる機会がなかったので、今回のプログラムを通して経験できてとれもうれしかった。

今後に向けて

今回、障害のある学生を対象として、本プログラムを初めて開催しましたが、障害のある学生にとって、障害のある社会人の話を聞いたり、障害のある同年代の学生と交流を持ったりする機会は、非常に限られています。
プログラム終了後、参加学生の一人が「社会人になったら、今度は先輩社員として、障害のある学生に話をしたい」と言ってくれました。小さな一歩ではありますが、こういった声を今後に繋げていきたい。
理系学生がエンジニアの社会人にOBOG訪問をする、グローバル志向のある学生が海外で活躍する社会人の話を聞くといったことと同じくらい、障害のある学生が、障害のある社会人と交流が持てることを目指して、今後もプログラムを継続していきます。