「障がいのある学生のための先輩社会人パネルトーク」レポート

2022年12月7日、オンラインプログラム「障がいのある学生のための先輩社会人パネルトーク」を開催しました。障がいのある学生に向けたイベントや情報発信の取り組み「GATE-C」の一環として、NTTドコモ、資生堂、ソニーグループから、障がいのある学生としての新卒就活経験のある先輩社会人を迎え、就活体験談を話していただいた本プログラム。開催レポートをお届けします。

プログラム概要

<参加学生>
Zoomでの参加が可能な障がいのある学生:16名
※全学年参加可能

<パネルトーク参加社会人>
新卒入社5年以内で、障がいのある学生としての新卒就活経験のある先輩社会人:3名
※株式会社NTTドコモ、株式会社資生堂、ソニーグループ株式会社から各1名

<プログラム>
17時00分〜19時00分
1. オープニング
2. パネルトーク:働き方や企業をどのように選んだか
3. 質疑応答
4. クロージング

1. オープニング(15分)

まずは、事務局から「GATE-C」や今回のプログラムのねらいを説明しました。

「GATE-C」は、障がいのある学生の皆さんが、自分らしい働き方の扉を開けて前に進むためのキャリアの入り口(=「GATE-C」)でありたいという考えから、企業や仕事理解のためのプログラムや、障がいのある方の「働く」や「キャリア」に関する情報発信などを行う活動です。

今回のプログラムもその一つで、参加学生の皆さんには、プログラムを通して次の3つを大事にしてほしいと伝えました。

・選択肢や考え方にはいろいろあることを知った上で、「自分はどうしたいか?」と考えるきっかけにしてほしい。人事や先輩社会人の意見だけでなく、参加学生の意見も「いろいろある考え方」の一つとして同じように受け止めてほしい。
・積極的に発言を聞くことと、勇気を出して発言することに取り組もう。
・「正しいこと」を自由に言える雰囲気を超えて、「もしかしたら間違っているかもしれない」と思うことも自由に言い合える雰囲気を目指そう。自分が知りたいことは、多くの場合ほかの人も知りたいことだから。

2. パネルトーク(75分)

続いて、メインイベントであるパネルトークです。NTTドコモ、資生堂、ソニーグループのから1名ずつ、障がいのある学生としての新卒就活経験のある先輩社会人の方にご登壇いただき、3つのテーマに沿って就活を振り返っていたただきました。進行役は、事務局とともに本イベントを企画した2024年卒業予定の障がいのある学生スタッフです。

テーマ

(1)「一般雇用」と「障がい者雇用」、どちらで働くか
(2)障がいに対する配慮について、企業とどのようなコミュニケーションをとったか
(3)「仕事のやりがい」と「仕事の継続性(続けられるか)」のバランスをどのように考えたか?

なお、先輩社会人の方々には次の障がいがあり、それぞれ必要な配慮を所属先と相談して勤務されています。

Aさん:肢体不自由(電動車椅子で生活中)
・Bさん:上肢障がい
・Cさん:内部障がい(心臓機能障がい)

テーマ(1)「一般雇用」と「障がい者雇用」、どちらで働くか

1つめのテーマは、「一般雇用と障がい者雇用、どちらで働くか」。多くの学生が抱えている悩みですが、先輩社会人の3人は就活中どのように考えていたのでしょうか?

Aさん:悩まなかった

自分の興味・関心ややりたいことを最優先に企業選びをしたので、「どちらの枠で就活を進めるか?」と悩むことはなく、興味を持った企業が一般雇用枠のみの募集であれば一般雇用枠に応募していました。

ただ、興味を持った企業に両方の雇用枠があるときは、どちらの枠に応募するか悩むこともありました。その際は、次のように判断することが多かったです。

・一般雇用よりも障がい者雇用の方が給与が低い場合、一般雇用枠への応募を検討。ただし、必要な配慮(「転勤がない」など)が一般雇用ではかなわないことが明確な場合、障がい者雇用枠に応募。
・一般雇用と障がい者雇用で待遇が同じ場合、障がい者雇用の方が配慮が保証されそうだと判断して障がい者雇用枠に応募

Bさん:悩まなかった

一般雇用も障がい者雇用も、どちらも選択肢の一つ程度に考えていたので、「どちらの枠で就活を進めるか?」と悩むことはなく、自分が重視することが叶う枠を企業ごとに選んでいました。

例えば、私が勤務している会社には、障がい者採用に応募しましたが、それは、障がい者雇用と一般雇用で仕事内容などに違いがなく、その上、必要な配慮をしてもらえるからでした。

Cさん:悩まなかった

障がい者雇用といっても会社によって内容は違うので、どういう働き方ができるのかといったことは確認していましたが、2人と同様、「どちらの枠で就活を進めるか?」と悩むことはなかったです。やりたいことを一番に考えて、就職活動をしていました。

テーマ(2)障がいに対する配慮について、企業とどのようなコミュニケーションをとったか

2つめのテーマは、「障がいに対する配慮について、企業とどのようなコミュニケーションをとったか」。とくに一般雇用枠での選考において、障がいについて企業に伝えたのか?また、伝えた場合にどのような情報をどこまで伝えたか?などについて3人の経験を伺いました。

Bさん:障がいや必要な配慮について伝えた

社会人として働くことは、学生生活を送るのとはまったく異なるので、学生の視点では予測し得ないことが起こるだろうし、それに対する配慮が必要な場面も出てくるのではないかと考え、次の方法で伝えていました。

・エントリーシートに健康状態の記入欄や備考欄があれば記載
・なければ、障がいの状況と必要な配慮を1枚にまとめた資料をつくって一次面接に持参。質問を受けた際に渡して説明
・質問を受けなければ、逆質問の時間に「1点、伝えさせてください」と断った上で資料を渡して説明

なお、面接時に持参した資料には、以下の情報を盛り込みました。

・障がいの種別・等級、生まれつきの障がいであること
・障がいの状況:障がいのある体の部分(右腕)がどのくらい可動するのかを具体的に記載
 (例)「パソコンは片手で入力します」「普段使っているのは左手で、補佐程度で右手を使います」など
・障がいの状況から思いつく、必要な配慮

Bさんの「障がいの状況と必要な配慮をまとめた資料を1枚つくる」という方法は、学内の障がいのある学生を対象にした就活セミナーで「どんな準備をするといいですか?」と質問した際にもらったアドバイスだったそうです。加えて、主治医の先生に「ほかの上肢障がいの人たちはどのような仕事に就いているのか」「主治医の視点から気をつけるといいと思うこと」などについて尋ね、助言をもらったそうです。

Cさん:障がいや必要な配慮について伝えた

障がいや必要な配慮については赤裸々に伝えていました。同じ障がいでも人それぞれ必要な配慮は違うのでちゃんと自分の状況について会社に知っておいていただきたかったですし、伝えることで会社もどのような配慮が必要か理解してくれますので、自分と企業がWin-Winの関係になれると思っていたからです。

一つ、伝える際に意識していたのは、「こういう障がいがあるので、こういうことができません」と「できないこと」だけを伝えるのではなく、「こういう障がいがあるけれど、こういう配慮をしてもらえれば、他の方と同じように働けます」などと「できること」が伝わる伝え方をしていました。

Aさん:障がいや必要な配慮について伝えた

私は、トイレに行くときは介助者の同伴を必要とするなど、配慮してもらわなければ働けないので、必要な配慮は伝えていました。

他方で、「物を落とした時に拾えない」「ドアを開けてもらわないと出入りできない」「ノートパソコンを自分で開けない」といったこまごまとした配慮まで伝えているとキリがないので、このような初対面の人にもお願いできるような配慮については、書類選考の段階では「握力がほとんどありません」「手が肩より上に上がりません」などと書くに留め、面接時に「そういう障がいがあるので、例えばドアを開けていただいたり、パソコンを開いていただいたりといったお手伝いを同僚の方にお願いすることがあります」などと伝えていました。

Bさんのように資料を別途用意することは、応募した企業がエントリーシートに配慮事項を記入できる企業ばかりだったのでありませんでした。ただ、記入欄に字数制限があったので(200字など)、できないことを明記しつつ、「こういう配慮をしてもらえれば、こういうことができる」などと「できること」に字数を割くようにしていました。 「できること」を考えることで、自分がその企業でどいうふうに働くかというイメージをもてますし、それを伝えることで、企業も自社でどのように働ける人なのかをイメージできると思います。

なお、Aさんは、「お願いした配慮に対応できない企業で最終選考まで進むことはまれだったので、選考が進んでいる時点で何かしらの形で配慮できるという判断がされていると捉えていた」とのこと。とくに、介助者の同伴の必要性について選考で話した際に面接担当者にまったくイメージがわいていない様子の企業の選考は進むことがなかったそうです。

他方で、「前例はないけれど、同伴を可能にする方法はなんとなく考えている/やり方を考えれば不可能なことではないと思う」などと話してくれる企業もあったそうです。

テーマ(3)「仕事のやりがい」と「仕事の継続性(続けられるか)」のバランスをどのように考えたか

3つめのテーマは、「仕事のやりがい」と「仕事の継続性(続けられるか)」のバランスをどのように考え、最終的にどちらを重視したかです。やりがいも求めたいけれど、仕事を続けられる環境で働くことも大事と考える人も多いでしょう。3人はどのように判断したのでしょうか?

Cさん:「仕事のやりがい」を重視

どちらも重要ですが、私はまずはやりがいを重視し、その上で、「この会社で働き続けられるか?」と考えていました。

というのは、仕事を続ける上で最も大切なのは、その仕事が自分に合っているかや、やりがいをもてるか、モチベーションを保てるかだと考えるからです。配慮を受けられることを重視してやりがいを軽視すると、障がい以外の理由で「辞めたい」となってしまう場合があるので、「この仕事やりたいんだ」と思える会社を選ぶことが大事だと思います。

Aさん:どちらも重視

私は、やりがいも継続性もどちらも重視しました。ただし、継続性は最低条件とという位置づけで、「なし」な企業を見つける基準にしていました。他方で、やりがいは、ないと仕事はできないですし、あればあるほどいいものだと考えていたので、いちばん「あり」な企業を見つけるための基準にしていました。

Bさん:「仕事の継続性」を重視

私は、仕事の継続性を重視しました。というのは、やりがいも「続けられるかどうか」を判断する要素の一つだと考えていたからです。この点で「継続性を重視した」というのが答えになると思います。

継続性を判断する要素には、やりがいのほかにも障がいに対する配慮や働きやすい環境などがあると思います。私がとくに重視していたのは通院のしやすさなども含めた「働きやすさ」だったので、やりがいがすごくあっても現実的に働き続けらそうにない企業の志望度は下がりました。

さらに、参加学生の皆さんからの質問にも答えていただきました。一部のやりとりを紹介します。

Q. 就活中、障がいについて伝えて嫌な顔をされた経験はありましたか?

Cさん:
障がいを伝えたときに、一瞬、顔がくもったかなと感じたことはありました。そういう会社があることも踏まえながら、自分を真正面から受け入れてくれる会社に入ろうと思って活動していました。

Aさん:
選考中に嫌な顔をされたことはありません。ただ、合同企業説明会でいろいろな企業のブースを回っていると、障がい者雇用に仕方なく取り組んでいる企業はわかりました。

Bさん:
私も嫌な顔をされたことはありません。ただ、一般雇用枠の面接で資料を出して障がいがあることを伝えようとした瞬間に、面接担当者の方々の空気が少し変わったことを自分が勝手に感じ取った経験はあります。あとは、会社説明会で人事の方の障がいに関する考えが自分とかけ離れている企業に出会うなど、こまごまとした違和感を抱いたことはありました。

Q. Bさんのお話にあった「社会人になると、学生のときには予想できないことがある」について、具体的にどのような場面に出会い、どう対処しましたか?

Bさん:
パソコン操作が、障がいによって人よりできないことに気づきました。もともと速くはなかったのですが、ずっと自分の能力の問題だと思っていたんです。ところが、採用面接で必要な配慮について伝えた際に「パソコンを片手で操作するから遅いといったことはありますか?」と聞かれ、能力の問題ではなく障がいによるものだと気づきました。それ以降、必要な配慮に「片手で操作するためパソコンの操作が遅いです」と付け加えることにしました。

質疑応答(20分)

続いて、先輩社会人に1人ずつブレイクアウトルームに分かれていただき、学生の皆さんが話を聞きたい先輩社会人の部屋を行き来する形で質疑応答を行いました。

学生の皆さんからは、就活の進め方や企業を選ぶ視点、所属先の企業に対して具体的にどのような配慮を求めたのか、現在の仕事内容の詳細などさまざまな質問が挙がり、先輩社会人の皆さんは一つずつ丁寧に答えてくださいました。

クロージング(10分)

学生の皆さんが今日の気づきや感想をチャットに記入して共有し、セミナーは終了です。終了後には、希望者を対象に学生同士がコミュニケーションをとる時間を設けました。

最後に、プログラム終了後にいただいた、参加学生の声を紹介します。

参加学生の声

・普段の会社説明会とは異なり、「会社」という目ではなく「社会人」としてお話しできたことが最も印象的でした。実際、働く際には会社のネームバリューの大小より日々の業務の方が継続性・やりがいに大きく影響すると感じました。

・障がいの伝え方について知ることができてよかったです。就活を楽しみたいと思います。

・あまり気を張ることなく、ありのままに質問をしたいことができていい時間が過ごせました。

・なかなか上肢障がいの先輩のお話を聞く機会がなかったので、お話しできて良かったです。自分も障がいをまとめた資料を作成してみようと思いました。

・障がいをもっていても、楽しそうにお仕事をされていることがわかった。障がいがあってもいいんだな、と思えた。

・企業や障がい者の就職活動について、ハードな面でなくソフトな面を中心に知ることができた。

・もっと障がいのレパートリーがあったり、障がい者雇用枠か、一般採用かで悩まれた方(障がいが目に見えない・比較的軽度など)がいるとより良かったです。

・先天的に障がいを抱えた方だけでなく就活時期が近くなってから突然障がいを抱えた人のエピソードなどが聞ければ自分の境遇とも近く、より参考になったと思いました。

今後に向けて

「障がいのある先輩社会人が、どのような就活をしていたのかを知りたい」という学生の声をきっかけとして、本企画を実施しました。

パネリストのご調整をいただいた参加企業の皆さまをはじめとして、多くの方々にご支援いただき、学生の期待にお応えできるよう取り組みましたが、一方で、一人ひとりの学生の目線に立つと、「先輩社会人に偏りを感じた」との声もいただきました。

今後は、企画内容の偏りにより、参加学生から他人事に見えないように、場合によっては、連続企画として実施し、一連のプログラムの中で偏りを解消することも含めて、引き続き、取り組んでいきます。