「障がいのある学生のための先輩社会人パネルトーク②」レポート

2023年2月8日、オンラインプログラム「障がいのある学生のための先輩社会人パネルトーク②」を開催しました。障害のある学生に向けたイベントや情報発信の取り組み「GATE-C」の一環として開催している本プログラム。
今回は、アドヴィックス、オムロン、リクルートオフィスサポートから、障害のある学生としての新卒就活経験のある先輩社会人を迎え、就活体験談などを伺いました。開催レポートをお届けします。

プログラム概要

<参加学生>
Zoomでの参加が可能な障害のある学生
※全学年参加可能

<パネルトーク参加社会人>
新卒入社5年以内で、障害のある学生としての新卒就活経験のある先輩社会人:3名
※株式会社アドヴィックス、オムロン株式会社、株式会社リクルートオフィスサポートから各1名

<プログラム>
17時00分〜19時00分
1. オープニング
2. パネルトーク:障害者に理解のある企業をどうやって探したか、など
3. 質疑応答
4. クロージング

1. オープニング(10分)

まずは、事務局から「GATE-C」や今回のプログラムのねらいを説明しました。

「GATE-C」は、障害のある学生の皆さんが、自分らしい働き方の扉を開けて前に進むためのキャリアの入り口(=「GATE-C」)でありたいという考えから、企業や仕事理解のためのプログラムや、障害のある方の「働く」や「キャリア」に関する情報発信などを行う取り組みです。

参加学生の皆さんには、プログラムを通して次の3つを大事にしてほしいと伝えました。

・先輩社会人や参加学生の話を聞いて、選択肢や考え方にはいろいろあることを知った上で、「自分はどうしたいか?」と考えるきっかけにしてほしい。先輩社会人の意見だけでなく、参加学生の意見も「いろいろある考え方」の一つとして同じように受け止めてほしい。
・積極的に発言を聞くことと、勇気を出して発言することに取り組もう。言葉にすることで、自分の考えがクリアになっていく。
・「正しいこと」を自由に言える雰囲気を超えて、「もしかしたら間違っているかもしれない」と思うことも自由に言い合える雰囲気を目指そう。自分が知りたいことは、多くの場合ほかの人も知りたいことだから。

2. パネルトーク(75分)

続いて、メインイベントであるパネルトークです。アドヴィックス、オムロン、リクルートオフィスサポートから1名ずつ、障害のある学生としての新卒就活経験のある先輩社会人の方にご登壇いただき、次の4つのテーマに沿って、就活を振り返っていたただきました。進行役は、事務局とともに本イベントを企画した2024年卒業予定の障害のある学生スタッフです。

テーマ

(1)「障害者に理解のある企業」とは、どのような企業だと思うか。
   また、「障害者に理解のある企業」をどうやって探したか
(2)一般採用と障害者採用、どちらに応募したか
(3)所属企業への入社の決め手は
(4)仕事をする上で、自分の障害が強みになった経験はあるか

なお、先輩社会人の方々には次の障がいがあり、それぞれ必要な配慮を所属先と相談して勤務されています。

Aさん:肝臓機能障がい(手帳有)、関節リウマチ(手帳なし・必要な時に配慮を受けている)
・Bさん:肢体不自由(下肢障がい)
・Cさん:肢体不自由(下肢障がい)

テーマ(1)「障害者に理解のある企業」とは、どのような企業だと思うか。また、「障害者に理解のある企業」をどうやって探したか

1つめのテーマは、「『障害者に理解のある企業』とは、どのような企業だと思うか。また、『障害者に理解のある企業』をどうやって探したか」。3名の先輩社会人の皆さんは、就活中に考えていたことや、社会人の今思うことなどを話してくださいました。

Bさん

一人ひとりの障害の状況に合わせて配慮してくれる企業が、障害者に理解のある企業だと思います。というのも、一言で障害者と言っても、人によってできることとできないことが異なるからです。個々人が持つ強みを最大限に発揮できるよう適切な配慮ができるような、無駄のない適切な配慮がなされることが、自分にとっても企業にとっても「理解のある」状態だと言えると思います。

私の場合、そういう企業を、障がい者のための就職情報サイト「クローバーナビ」や障がい者のための就職・雇用・求人サイト「ウェブ・サーナ」を使って探しました。就職先選びにおいて重視していたのが、「自分の障害を受け入れた上で挑戦させてくれること」と「勤務地」だったので、まず勤務地で絞り、説明会や選考で社員と話した印象などから前者の条件が叶う企業かどうかを見極めていました。

Aさん

障害のある社員を受け入れていて、かつ、障害に対する配慮が適切になされている企業が、障害者に理解のある企業だと思って就活をしていました。

私の場合、コロナ禍よりも前に就活をしたので、興味をもった企業は、説明会やインターンシップなど、対面で話を聞ける機会に必ず足を運び、人事だけでなく先輩社員の話を必ず聞いて、どのような配慮を受けているのか、会社に対して本音ではどう思っているのかなど、リアルな声を聞くようにしていました。コロナ禍でも、オンラインで人事や先輩社員と話す機会を持つことはできるので、企業にお願いするといいと思います。企業探し自体は、「クローバーナビ」や「ウェブ・サーナ」を使ってやっていました。

Cさん

就活中は、障害について伝えても嫌な顔をせず、障害についてしっかりと聞いてくれる企業が障害者に理解のある企業だと思っていました。私の場合、障害のある新卒学生の就活支援サービス「atGP就活エージェント」に登録し、担当のキャリアアドバイザーの方にやりたいことを伝えて、叶いそうな企業を紹介してもらっていました。その上で、面接を受けて障害者に理解のある企業を見極めていました。

働いている今思うのは、障害のある社員と会社が対等な関係にある企業、具体的には、会社が「配慮してあげる」ではなく、「配慮して活躍できる環境をつくることが会社にとって必要だから配慮する」というお互いにとって良い落としどころを見つけていくことができる企業が、障害者に理解のある企業と言えるのではないかということです。就活中にこのような企業を見つけるのはなかなか難しいですが、面接を通して多少は感じとることができると思います。

テーマ(2)一般採用と障害者採用、どちらに応募したか

2つめのテーマは、「一般採用と障害者採用、どちらに応募したか」。理由とともにお聞かせいただきました。

Cさん

身体障害を負ってから1年経たずに就活を始めたため、迷わず障害者採用への応募を選びました。というのは、自分自身が障害を理解する途上にあり、障害に対する不安が大きかったからです。働く上で本当にどこまでできるのか・できないのかを理解する段階にはまだ入れていなかったので、一般採用に応募するよりは障害者採用に応募して、「必要な配慮について、まだわからない部分がある」ということを伝えて働く方が自分は安心だし、会社も安心だろうと考えました。

Bさん

今の会社には、障害者採用で入社しました。理由は、障害のあることを生かして仕事をしたかったことと、障害者採用であれば、障害について周知しやすく、周りからも適切な配慮をしてもらいやすいだろうと考えたからです。

テーマ(3)所属企業への入社の決め手は?

3つめのテーマは、「所属企業への入社の決め手は?」。今働いている企業への入社の決め手は何だったのでしょうか?

Aさん

社風と、目指したいキャリアパスを実現している人がいることの2点です。就活生向けイベントで人事や先輩社員と話した際に、親しみやすく、かつ、社員同士が意見を言いやすい関係性であることが伝わってきて魅力に感じました。また、障害のある社員もリーダーやマネージャーなどの役職に就いていることに、自分もそうなりたいと思い、入社を決めました。

Bさん

人事や社員の方の話から、また、職場を見せてもらって、自分が企業選びで重視していた「自分の障害を受け入れた上で挑戦させてくれること」が想像できたことが決め手になりました。

Cさん

企業選びで重視していた「社会貢献度の高い会社」に合致することと、選考中に「こういう仕事を担当してもらいたい」と言われた業務が、自分が取り組みたいと思っていた「企業の中で障害のある人が活躍するための仕事」に近いものだったことが、決め手になりました。

テーマ(4)仕事をする上で、自分の障害が強みになった経験はあるか

4つめのテーマは、「仕事をする上で、自分の障害が強みになった経験はあるか」。先輩社会人の皆さんはそれぞれ、障害があるからこそできることなどを話してくださいました。

Cさん

担当業務である障害者活躍支援を進めていく中で、障害のある人が配慮を申し出るときに迷うことがあるということを、自分の経験に基づいて知っていることは強みかなと思います。

例えば、働いていると、「頑張ればできそうだけど、配慮してもらえるならしてもらいたい」というラインのことを伝えるべきかどうか迷う場面が少なからず出てきます。私自身もその経験があるので、迷いを察知しやすいのではないかと思います。

Bさん

障害があっても、「周りと同じだけやりたい」「それ以上の成果を出したい」という思いが自分にはあって、「じゃあ、どうすればできるようになるか」「何か違う方法でできるんじゃないか」などと、困難に対しても工夫しようと思えることや、実際に行動できる力をつけられていることは、障害を持ってよかったことかなと思います。

Aさん

障害のある人の気持ちを理解できるのは、強みというか、障害を持ってよかったなと思う点です。私の場合、先天性の障害に加えて後天性の疾患があり、後天性の疾患については症状や対処の仕方を勉強しながら生活したり仕事をしたりしているので、現在担当している採用業務において後天的に障害を負った学生の気持ちにも寄り添えるのではないかと思います。

さらに、参加学生の皆さんからの質問にも答えていただきました。一部のやりとりを紹介します。

Q. 身体障害で通勤が困難なため、在宅でできる仕事を探しています。この場合、どのように就活をするといいのでしょうか?

Bさん:
就活の進め方については、オンラインでのイベント参加がすごくいい機会になると思います。体調の都合などで参加できないときは、人事に頼んでメールや電話で話を聞いてもらったり、気になることを聞かせてもらったりする機会をつくれれば、在宅ででも就活を進められると思います。

Aさん:
就職後、在宅で仕事ができるかは企業によってまちまちなのが実情です。ただ、コロナ禍でリモートワークを導入している企業も多いので、自分はリモートでなら働けることを企業に伝えれば、その働き方でできる仕事を担当させてもらえる可能性もあるので、企業に相談してみるといいと思います。

また、個別の企業の実情に関する質問も挙がり、先輩社会人や人事の方に回答いただきました。

Q. 発達障害のある人の雇用実績はありますか?

3社とも、「ある」という回答でした。

Q. 障害者雇用の場合、一般雇用に比べて給与が低いイメージがありますが、実際はどうですか?

アドヴィックス:
障がい者雇用、一般雇用に関わらず「スタッフ(総合)職」か「実務(一般事務)職」での採用となり、職群によって給与体系が異なります。障がい者だから給与が低い、ということはありません。

オムロン:
障害者採用も一般採用も、給与額は同じ。入り口が分かれているだけで、採用後はどちらも総合職として、同じ給与体系のもと雇用されます。

リクルートオフィスサポート:
リクルートグループの特例子会社として、障害者手帳を持っている人を募集対象としていますので、一般雇用との比較は難しいですが、大卒の平均的な給与と大きくは変わりません。入社と同時に都内で一人暮らしをされている方もいます。 

Q. 新卒で就労移行支援を受けて入社する人はいますか?

オムロン:
新卒・中途に限らず、就労移行支援を受けて入社する人はいます。

リクルートオフィスサポート:
新卒入社ではおりませんが、中途入社の方で就労移行支援を利用して入社する方はいらっしゃいます。
利用いただくことで入社後も相談支援が受けられるなど、安心して働き始めることができると思いますので、ご希望されている方は活用をご検討いただければと思います。

アドヴィックス:
会社として絶対に利用してほしいという指導はしませんが、利用を希望されるなら、ぜひ利用していただきたいと思います。学生から社会人になるにあたり、環境や生活がかなり変化するので、就労移行支援事業所の方と会社でタッグを組んでサポートできればと思います。

質疑応答(25分)

続いて、先輩社会人に1人ずつブレイクアウトルームに分かれていただき、学生の皆さんが話を聞きたい先輩社会人の部屋を行き来する形で質疑応答を行いました。

学生の皆さんからは活発に質問が挙がり、先輩社会人の皆さんが一つずつ丁寧に答えてくださいました。質問の一部をご紹介します。

  • オンラインで開催されている障害のある学生向けのイベント情報はどのようにして見つけるといいか?
  • 必要な配慮を伝えるとき、どれくらいの分量の資料をいつ渡していたか?
  • 自分ができることとできないことを、どのようにして自覚したか?
  • 一般採用と障害者採用のどちらに応募するかは、いつまでに決めるといいか?また、どのような基準で判断したか?   など

クロージング(10分)

最後に、学生の皆さんが今日の気づきや感想をチャットに記入して共有し、セミナーは終了です。終了後には、希望者を対象に学生同士がコミュニケーションをとる時間を設けました。

プログラム終了後にいただいた、参加学生の声を紹介します。

参加学生の声

・「自分がどこまでできるのか・できないのかが把握しきれていない段階」という、障害のある人特有の悩みを言語化して話してくださり、共感しました。自己理解する努力からが就活だと捉えます!

・自分の障がいを理解して伝える練習をしようと思いました。

・様々な情報を知れてとても良かったです。

・自分のやりたいことやできることと、企業でそれを叶えられるかをマッチングするっていう基本は障害の有無にかかわらず共通なのだなと感じました。

・今日登壇してくださった先輩社会人の皆さんの会社は障害に理解のある会社で、各社員の方のやりたいこととマッチングしているからこそ活躍されているのだと感じました。